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更新日:2014-12-12
4年生の実験
文責学部4年米山 智之

ここでは、学部4年生が研究室に配属されてから12月までに行ってきた実験について簡単に紹介します。前期には、4年生3人共同でSTM、銀薄膜の作製、AFM、光吸収測定の実験を行いました。後期からは、STM班、EELS班の二班に分かれてそれぞれ実験を行っています。

学部3年生までの物理学実験と、研究室での実験との大きな違いは、与えられたテキストなどに沿って実験を行うのではなく、実験の目標・詳細を自分たちで定め、主体性を持った実験を行うという点です。もちろん、はじめのうちは装置の使い方などわからないことが多いと思いますが、必要に応じて研究室の方々が優しく教えてくださり、また実際に手を動かして行うことで、少しずつ実験のやり方や考え方が身についてきます。

以下に、前期に行った実験を簡単に紹介します。

・STM(走査型トンネル顕微鏡:Scanning Tunneling Microscope)
試料表面の構造を原子レベルで調べるために、STMという装置を使ってHOPG(グラファイト(黒鉛)の一種)の表面を測定する実験を行いました。
STMの原理を簡単に説明します。図1のように、先端が原子レベルで尖っている導電性の物質でできた「Tip(探針)」を、同じく導電性の試料の表面に接近させて、Tipに電圧を加えます。


図1 STMの原理

通常、Tipと試料の間に空気というポテンシャル障壁があるため電流は流れません。ところが、Tipと試料の間の距離が十分接近すると、「トンネル効果」という量子力学的現象により、電子がポテンシャルを飛び越え、それがトンネル電流として観測されます。このトンネル電流の大きさはTipと試料の間の距離に対し非常に敏感に変化するので、トンネル電流の大きさを一定に保ちながらTipで試料表面をなぞると、Tipの上下の動きと対応付けて試料表面の電子の分布を画像として得ることができます。


図2 HOPGのSTM像

図2は、実際に測定したHOPGのSTM像です。この像は3 nm × 3nmという非常に小さな範囲を表しています。白い部分が規則正しく配列していることがわかると思います。これが、HOPGを構成する炭素原子の存在する位置を示しています。この実験で使用したSTM装置は、机の上で実験ができるほどコンパクトで、Tipと試料表面を準備すれば、大気中でも手軽に図2のようなSTM像を得ることができます。

このように、普段直接目にすることのできない物質の原子スケールでの構造を画像として取り出すことができ、またその構造について解析することができることがSTM実験の面白いところです。

・銀薄膜の作製(真空蒸着法)
同じ原子からなる固体でも、厚さが非常に小さい薄膜は、バルク(厚みの大きな塊)とは大きく異なる物理的性質を持っています。そのような薄膜の性質を調べるために、図3のような装置を使って、銀の薄膜を作製しました。


図3 真空蒸着装置

図3で、ガラス容器内で銀の線を加熱し蒸発させ、容器内の上方に固定した石英ガラスの基板に銀原子を付着(蒸着)させます。どのぐらいの量の銀が蒸着したのかは、膜厚計によって測定することができます。ガラス容器の中はポンプで真空に引かれており、ゴミの付着を防ぎ綺麗でムラの少ない薄膜を作製することができます。これは、真空度を上げて容器内の気体分子が減ることによって、蒸発した銀原子が気体分子にぶつかる確率が減り基板にまっすぐ向かうことができるからです。このように、綺麗な試料を作ったり、その構造を原子スケールで観察するために、この研究室では「よりよい真空」を作ることが大切になります。

薄膜の性質はその厚さによって変わってきます。そのため、自分たちが興味を持ち調べたいと思う薄膜の厚さを決めて、蒸着時間や温度などを調節して、様々な厚さの銀薄膜を作製しました。

文責学部4年永田 龍太郎

○AFM(Atomic Force Microscope)
 AFMってまた難しい単語が出てきたよ…と思うかもしれませんが、物理を勉強する学部生なら原理を理解できるとてもシンプルな装置なのです。Atomic Forceとは原子間力のことで、AFMは原子間力を用いて表面を測定する顕微鏡のことです。原子間力でどうやって測定するの?と疑問に思うかもしれませんが、今からその原理を説明します!

 図4を見てください。三角形がAFMの針で、直方体が並んだものが物質の表面です。STMにはないレバーのようなものがAFMの針についています。このレバーは原子間力によってたわみ方が変わります。原子間力が大きいと反発でたわみ具合が大きくなり、逆に原子間力が小さいとたわみ具合が小さくなります。これはお手元の定規を使えば容易に理解できます。原子間力は距離に依存するので、たわみ具合で針と物質の間の距離が分かりますね。ということは、たわみ具合を調整して一定になるように制御すれば、チップとサンプルの間の距離を保ちながら針が動くことができます。それらを踏まえた上で、図4の矢印を見てください。チップとサンプルの間の距離を一定にするには、レバーの起点の部分も同じ動きをすることが必要になります。つまり起点の動きは表面をなぞる針の動きを反映するということです。その起点の動きをPCに画像として変換してくれて、結果的には表面の画像として読み取ることができるのです。素晴らしい!


図4 AFMの原理図
          

下の図5は4年生が銀の薄膜をAFMで測定したものです。明るい部分が凸、暗い部分が凹です。AFMはSTMよりスケールが大きなスケールで測定できます。原子ではなくクラスター(原子の集まり)が観察できます。AFMはSTMよりマクロに全体像が見えて、物質の表面を広い範囲で評価ができるのです。また、すべての物質には原子間力が存在します。したがってAFMはあらゆる物質の表面が見られるので、絶縁体や有機物の表面も観察できます。4年生で初めてAFMを使って実験をしましたが、とても丁寧に指導をしてもらえるので、こんなに綺麗なデータがとれます!


図5 銀薄膜表面のAFM画像

○光吸収スペクトル
下の写真は上記の銀の蒸着で作った薄膜ですが、なぜ色が異なるのでしょう?それは薄さに違いがあるからです。固体として厚みある銀の場合、外部からの光(電場)を打ち消す静電誘導が起こり、それに加えて全反射で光は透過しません。しかし、薄さの違い(左から膜厚が40Å、100Å、200Å)で見える色が全然違います。これは薄膜によって光の透過率(反射率)が異なるからです。同じ銀なのに薄さで性質が違うなんて面白いですね!上記ではミクロな実験や実験装置も取り上げていますが、分光器を使って測定するマクロな実験も4年生実験で行っています。


図6 Ag薄膜の40、100、200Å(左から)
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