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更新日:2013-12-19
4年生の実験
文責学部4年梶田 智宏
 橋本 英明

 初めに今期に行った実験を簡潔に紹介します。各装置の詳しい説明は後でしますので、気になった方はそちらも読んでください。

 まず、グラファイトをサンプルとして、STM(走査トンネル顕微鏡)の使い方を学びました。続いて銀薄膜の性質を調べるために次の3つの実験を行いました。最初に銀薄膜そのものの作製するために、蒸着という作業を行いました。次にその性質を調べるためにAFM(原子間力顕微鏡)を用いて観察しナノスケールでの構造を、光吸収装置を用いて光学的特性を調べました。

 研究室の実験はこれまでの物理学実験とは異なり、テキストや資料は渡されず、装置の使い方や実験の原理は自分で聞いたり調べたりして、自分なりの言葉でまとめます。また、実験の詳細は自分達で決めます。例えばどれくらいの厚さの薄膜を作るかなどです。このように主体性をもって実験に取り組むようになります。初めて経験することなので戸惑うこともあると思いますが(僕もそうでした)、研究室の方々が必要なことは教えて下さいます。

それでは各実験の詳細を述べます。

○STM(走査トンネル顕微鏡 : Scanning Tunneling Microscope)
 量子力学を学んだ方は「トンネル効果」という言葉を聞いたことがあると思います。学部で学んだばかりの頃はピンと来なかったかもしれませんが、STMではトンネル効果を原理として試料表面を観測するので量子力学的な現象をリアリティを持って体感することができます。以下に原理図を示しました(図1)。


図1:STM原理図

 Tipと言われる先端が非常に鋭く尖った探針と試料表面を十分近づけると、両者の電子の波動関数は「干渉」します(図1の黄色部分)。そして量子力学的現象であるトンネル効果により電子はTipと試料の間のポテンシャル(=空気)を飛び越え、それはトンネル電流として測定されます。トンネル電流の大きさはTipと試料の距離に依存するので、トンネル電流の大きさが一定になるようにTipで試料表面をなぞると、表面の電子分布をTipの上下の動きとして画像化することができます。以下にグラファイト表面のSTM像を示しました(図2)。


図2:グラファイト表面のSTM像

図中の白く明るい点が炭素原子の位置を表しています。シンプルな原理でこのように非常に小さなスケールで原子像が見られること、そして画像から直接構造解析ができることがこの実験の面白さであると感じています。

○銀の蒸着
 手順としては、真空装置の中で銀を加熱して、蒸発させます。それを装置内に配置した基板に付着させ、銀の薄膜を作成します。加熱時間を変えることにより膜厚を変えることができます。なお、基板の温度を変えて蒸着を行うために、基板の温度を上げることのできる装置の開発中です。そう、必要と感じたら装置の開発もやったりするのです。

○AFM(Atomic Force Microscope)
 物質は原子や分子といった細かい粒々でできているということはみなさんもご存じでしょう。この装置を使えばそれぞれが何個か集まった集合体の画像を見ることができます!AFMとは訳すると原子間力顕微鏡といい、STMと同じく試料表面をなぞるTipの上下の動きを画像化します。ただしトンネル電流の代わりに原子間力による反発力でTipが上下に動きます。そのために、電流が流れない絶縁体なども見ることができます。下の図はAFMにより、上記の作製した銀薄膜の表面を見た実際の画像です。粒1つずつが銀原子がいくつか集まった集合体です。


図3: 銀薄膜表面のAFM像

○光吸収スペクトル
 私たちが普段目にする銀製品が光沢のある白色に見えるのはどうしてでしょう?それは銀の内部の電子が、外部からの光(電場)の侵入を打ち消す向きに電場を誘起する(準静電誘導)ことに加えて、可視光領域の光を均等に反射するからです。ただしそれは銀の塊(バルクという)についてのみ成り立つのであって、同じ銀でもものすご~く薄い膜だとその性質はバルクとは随分異なります。以下に膜厚100 Å(上)と72 Å(下)のAg薄膜を示しました(図4)。


図4: Ag薄膜100Å(上)と72Å(下

2つの薄膜の色が違うことが分かりますね。100Åの薄膜は黒っぽく見えるのに対し、72Åでは全体的に紫がかっています。また、右下の方は装置の都合で膜厚が少し薄くなっており、この部分は黄色に見えます。このように見えるのは膜厚によって光の透過率(反射率)が異なるからです。これまで述べてきた性質は薄膜特有のものであり、そこに興味を持って私たちは研究を行っています。薄膜の構造をSTMやAFMで解析するというミクロな実験的アプローチだけでなく、光学物理量である反射率(または透過率)を測定するというマクロな実験手法も取っていることは4年生実験の1つの特徴です。

現在は様々な膜厚の薄膜の光学的性質の違いからバルクと薄膜の境界を模索し、作製したサンプルそれぞれのミクロな構造をも解析することを目標にして実験に取り組んでいます。

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